本日は12月24日。
世間一般的に、クリマスイブって日。

家族で食事をしたり、プレゼントをもらったり、恋人と過ごしてみたり。
とにかく、人々の大事なイベントの日。


・・・なんでクリスマスの前の日のほうが盛り上がるのかは永遠の謎だけど




聖 な る 夜 の 願 い 事





「寒いー」

晴汰がマフラーを巻きなおしながら、悪態をつく。
喋るたびに吐き出される息は白く、寒さを明確に表している。

「冬が寒いのは当たり前」
当たり前のことを言いながらも、心の中では自分も寒いと思う。
荷物を抱えた手は手袋をしていても冷たくなっている。

「寒いよねー・・・それにお腹すいた」
緋紗がハァとため息を付く。
もちろん、その息も真っ白だ。


「・・・灰流はー?寒くないのー?」

緋紗が手を擦りながら問いかける。
そういえば、さっきから灰流だけが寒さを訴えない。

「・・・・・・・・寒いのは嫌いじゃないから」

何とも灰流らしい答えに、思わず苦笑してしまう。

「俺は暑いほうが好きだな」
「晴汰らしいな」

晴汰は暑い方が似合う気がする。
そう言って笑ったら、緋紗も笑った。

「晴汰は夏のほうが似合いそうだもんねー・・・爽は?」

「うーん・・・中間の季節が好きかな。秋とか春とか」
「私も。過ごしやすいもん」

緋紗がもう一度寒いと言うと、不意に灰流が呟いた。


「・・・・・雪?」


その声につられて、みんなで空を見上げる。


「・・・本当だ」


空からは白いものがヒラヒラと舞い降りてくる。
肌に触れると冷たくて、ドキリとする。


「ホワイトクリスマスってやつだね」
緋紗が空を見上げながら、嬉しそうに笑う。
その笑顔にも雪が触れる。


「・・・ホワイトクリスマスはいいけどさ、早く帰った方がよくないか?」

晴汰が自分の荷物を見ながら言う。
その顔には微かな焦りが見える。

俺が「何で?」と問う前に、灰流が静かに口を開いた。


「・・・・・・・・・・・・みんな、待ってるかも」


その一言で俺たち四人は一瞬だけ、自分の持っていた荷物に目を走らせる。
そしてため息を付くと、少し早足で店への帰路を歩いた。


・・・・顔が少し青いのは、決して寒さだけのせいじゃない



さっきも言ったとおり、今日はクリスマス(正確にはイブ)
大抵の人々が浮かれ騒ぐ日。

・・・もっとも、俺も去年までは浮かれ騒いでたかもしれない


今年は色々と・・・そう本当に色々なことがあって
クリスマスが近づいていることなんて気付かなかった。

昨日、紫苑さんが言い出すまでは。




雪から逃げるように店内に入ると、もうすっかりクリスマスの飾りつけが出来ている。
奥からいい匂いがしてくるのは、店長がお得意の料理をしているからだろう。

「おかえりなさーい・・・遅かったですね」

椅子に座ってサンタの帽子を被っているのは、今日の日の発案者、紫苑さん。
その横では、店長の子供である風君と凪ちゃんが同じような帽子を被っている。

「・・・・紫苑、怒ってないよな?」
晴汰が強張った顔で恐る恐る尋ねる。
その後ろでは隠れるように緋紗が顔を覗かせている。 紫苑さんは笑顔で晴汰の問いに答えた。

「・・・クリスマスだから、許してあげることにしますね」


・・・その笑顔は外の雪なんかより何倍も冷たそうだった


「お兄ちゃん、お帰り。本当に遅かったね」
彩が料理の皿を片手に調理場の方からやって来た。
やっぱりサンタ的な帽子を被っている。
「ああ・・・外で雪が降ってたから」

俺の一言で彩の顔がパァと笑顔になった。
「本当!ホワイトクリスマスだね!」
そう言って喜んでいると、風君と凪ちゃんも寄ってきた。

「雪ってほんとー?」
「・・・雪、見たい」

二人とも期待に満ち溢れている顔をしている。
特に風君なんて、今にも外へ飛び出しそうだ。


「・・・雪より先に手伝え」
「そうよー。働かざるもの食うべからずよ」

奥から出てきたのは、店長と輝さん。
二人とも手に料理の皿を持っている。

・・・輝さんはあまり料理が上手くないらしいから、作ったのは店長だろう


「ええ!やだ、お腹空いたー」
「なんか扱い荒くないか!?」
「・・・・・・・・・・・眠い」

買い物組の三人はそれぞれ不満を言いながらも、渋々作業に取り掛かる。
まだ小さい双子も店長の手伝いを始める。


その光景に俺と彩は顔を見合わせて笑って、部屋の飾りつけをすることにした




昨日、紫苑さんが言い出した事が今日の始まりだった。

『明日はクリスマス〜・・・パーティー日和ですよね!』


店長は、紫苑さんが何を言っても止まらない事を分かっていたのだろう。
特に反対はしなかった。

何よりも晴汰、緋紗が物凄く乗り気だったし。
俺も彩も、反対する理由が見つからなかった・・・というか、反対したら後が怖い。
灰流は別に関心を示さなかった(多分寝てた)


それから急いでパーティーの準備は始まった。
店を休みにして、朝から走り回った(主に俺が)


かくして、輝さんも風君も凪ちゃんも呼んで、突発的なクリスマスパーティーが開始されたわけだ




「・・・なーんで、黒斗はこんなに料理が上手いかな」
フォークに刺したケーキを恨めしそうな顔で輝さんが見つめている。

「・・・お父さんのケーキ、美味しいよ」
「ね、美味しいね」
凪ちゃんが彩に言うと、彩も笑顔で返す。


ちなみに目の前に並ぶ料理は、全部店長が作ったらしい。
お味の方は・・・言うまでも無く、美味しい。

そりゃあ、輝さんも複雑な表情になるだろう


「ねーねー、店長。クリスマスプレゼント無いの?」
緋紗が冗談交じりの口調で問いかける。
「いいですねー、それ。僕も欲しいですよ〜」
紫苑さんも笑顔で賛同する。

・・・紫苑さんはあげる側ではないのだろうか?
喉まで出かかった疑問をジュースと一緒に飲み込む。

「ない」
店長は無表情に言い放った。
紫苑さんはブーブーと口を尖らせる。

「でもちゃーんと、風と凪の分は買ってありそうだよな」
晴汰が小声で俺に耳打ちする。
「・・・かもね」
店長は意外と良いお父さんっぽいもんな。



こうして皆で騒いでいると、去年のクリスマスを思い出す


あのころはまだ、父さんが居た



「雪だー」
「積もってるね」

食べ終わった後は風君と凪ちゃんの強い希望もあり、みんなで外へ出た。
雪は止んだみたいだけど、地面を覆いつくすまでに積もっていた。


寒くて、吐き出す息は白い。
去年は雪は降ってなかったけど寒かったことを思い出した。
隣に立っている彩も、同じように白い息を吐き出している。

「お兄ちゃん・・・去年のクリスマス、覚えてる?」
「ああ・・・父さんが窓から入ろうとしたな」


思い出してから、二人で笑う

絶対に戻ってこない日々は、昨日のことのように思い出せる


「楽しかったね・・・」

言いながら、彩が泣いてることに気付いた。
足元の雪が、零れ落ちる涙で少しだけ溶ける。



人はいつか、楽しかった日々を笑いながら話せるのだろうか


今はまだ、思い出すには辛すぎるけど


だけど、楽しい今があるのなら



「・・・今だって楽しいだろ?」


俺の言葉に、彩は少しだけキョトンとした顔をしたけれど、すぐに涙を拭いて笑った。

「うん、もちろん!」

「俺もだよ・・・・・痛っ!」


不意に走った冷たい衝撃に、何事かと思い振り向くと笑顔の晴汰が居た。
どうやら、衝撃の正体は投げた雪玉らしい。

「なーに突っ立ってんだよ?」
「遊ばないのー?」

そういいながらも、晴汰と緋紗はどんどん雪玉を投げてくる。
これがまた、地味に痛い。

「・・・・投げる前に聞けよ!」

俺も足元の雪で、雪玉を作って投げ返す。
彩も楽しそうに笑って、雪玉を作る。

・・・いつの間にかクリスマスパーティーは、本気の雪合戦に変わっていたのは言うまでも無い。






「・・・元気ですね〜」
微笑みながら紫苑が言う。

黒斗、紫苑、輝の三人は店の屋根の下で雪を見つめていた。

「・・・たまにはいいんじゃないか?」
煙草に火を点けながら、黒斗が返す。
その言葉に輝も頷く。
「そうそう、たまには遊ばないとね」

紫苑はそうですね、と言って雪を少し拾った。
「じゃあ僕も遊ぼうかな〜」

「・・・・お前はいつも遊んでるだろうが」

ため息とともに吐き出された煙草の煙は、澄んだ夜空に昇っていった・・・。



どんなカタチでも、いつかは笑い合える思い出になる


来年もまた、この聖なる夜を迎えられる事を願っていよう


大切な人達と迎えられる、この日が来る事を






+   +   +   +   +   

W×Bの蓮見様のクリスマスフリー小説を強奪して参りました!!

はあぁ相変わらず惚れ惚れする文章・・・vv
一文一文の表現が綺麗で、いつもときめかせて頂いています。
しかもcrossing pointのファンには堪らないサイドストーリー(?)ですよ!
でも読んだ事の無い人でもすんなりと受け容れられるであろうその表現力に感服です。
蓮見様のサイトへはリンクページから飛べます故是非是非crossing pointの方も!
ていうか名前の付け方もホント好きです・・・vv

ではー、本当に有難う御座いました!メリークリスマス!!







love top