はらり、はらりと散り始めた桜の花弁が、風にのって宙を舞う。


それはとても幻想的な雰囲気。


あまりにも儚く美しい光景に眩暈さえ覚え、そして酷く不安になる。


握り潰されてしまいそうな胸を押さえつけ、貴女に宛てて手紙を綴る。




全ての花が、落ちきる前に。







*君に届かぬ春の日の*







親愛なる  様へ



お元気ですか?なんて、俺の言えた義理ではないんですが。

そちらはまだまだ寒いでしょう。風邪など気をつけて下さいね。


俺は今、本州の端にいます。

段々暖かくなり、桜の花が少しずつ開き始めました。

何日か後には窓下に薄桃色の景色が広がっているかと思うと、今から心が弾みます。

きっと、綺麗なんでしょうね。


なんて言ったら、貴女は桜を見にここまで来るとでも言い出しそうですね。

咲いたら写真送ってあげますから、そっちで待ってて下さい。


そっちの桜が咲く頃には俺も帰れればと思っています。そしたらまた、皆で花見に行きましょう。



それでは、会える日を楽しみにしています。




××××





*   *   *





一ヶ月以上前に届いた手紙を握り締め、私は君の許へと向かっています。


ねぇ、こっちでも桜は散って、みんな葉っぱになっちゃったよ。

結局君は帰ってこなかったから、他の皆でお花見行っちゃった。ごめんね。

でも、やっぱり君がいないと物足りなかった。来年こそは一緒に行こう?



だから、だから―――。





*   *   *





ベッドの横に置かれた封をしていない手紙は、君が私に宛てたもの。

何週間も前に書かれ、でも届けられることがなかった手紙と写真は今、受け取り主の手の中にあります。



写真には、満開の桜の前で笑う君。

手紙には、君が私に綴った言の葉。



そして書き手は、もう届かない、遠い空。



ねぇ、話、聞いてくれるんじゃないの?

君が笑ってくれるかなって、沢山のお土産話を持ってきたのに。


確かに私は皆の世話ばっかりで、ロクに桜を見れなかった。でもお節介なんかじゃないんだから。

途中で凄い風が吹いたりして、色々と大変だったんだよ。

お団子食べ過ぎてお腹痛くなっちゃったしさ。


でも、でもね。

写真の桜と同じくらい、すっごくすっごく綺麗だった。



君と一緒に、見たかった。





*   *   *





親愛なる  様へ



御返事、有難う御座いました。そちらではまだ雪が降っていたんですね。

この手紙が届く頃にはもう暖かくなっていることでしょう。

もしかしたら、もう桜が咲いているかもしれませんね。だとしたら俺、貴女に謝らなければなりません。

すみません。今年はそちらに帰れそうにありません。


少しの間、ちょっと遠いところに行くことになりました。

すぐに帰ってくる予定なんですが、流石にそちらの桜には間に合いそうにありません。

出来れば貴女と桜を見たかったんですが。


偶には一人でゆっくり花見もいいかなと思ったんですが、やっぱりちょっと淋しかったです。

凄く綺麗でしたけど、ね。


桜を見上げていると、皆と騒ぐ貴女の姿がよぎります。

御節介な貴女は桜を見る間も無く皆の世話をしているんでしょうね。

また、話聞かせて下さいね。




××××


P.S.同封した写真はお世話になっている人が撮ってくれました。こっちの桜も中々捨てたモンじゃないでしょう?





*   *   *





窓の外に広がる緑は、散ってしまった桃色の後で、きらきら、きらきら光っていました。


それはとても現実的で、酷く心が痛みました。




落ちてしまったはなびらは、何処に飛んでいったのかな?












*   *   *

はい、ということで『君に届かぬ春の日の』でした。無駄にタイトル長いのは御愛嬌。
…短い、ですね。判ってます。
でもこれ以上長くしてグダグダになっちゃうのも嫌だったので此処で終了という事で。
因みに名前が無いのは意図的です。

試行錯誤の末に出来た短文です。散文…って云うのでしょうか、こういうの。
手紙で桜で死ネタという書きたいものを全て放り込んでみたらこんなのになりました。
何か、皆様に訴え掛けられるようなものがあれば大成功ですが、はてさて如何でしたでしょうか?
個人的には凄く書き易かったですね。シリアス大好きっ子ですから。

最後になりましたが、書くにあたってお世話になった方と読んで下さった皆様に最大限の感謝を。






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