ボクと彼女は、正反対



 

+天使と悪魔と+





綺麗な綺麗な月の光の下で、ボクは彼女に出会った。

 その日は神様のお許しが出たから、たった一日だけれど、下界に降りる事が出来たんだ。

 ボクやボクの友達は、人間界の人達から”天使”って呼ばれる存在で、下界っていうのは”悪魔”が棲んでいる場所の事。

ボク達天使は、よほどの事が無い限り天界から下へは降りられない。

神様が言うには、「下に行って、もし”悪魔”にでも捕らえられれば、二度とこちらへは帰ってこられなくなる」らしい。

ボク達は小さい頃から、悪魔は酷い奴らだから、絶対に近寄っちゃいけないんだって、何度も何度も教え込まれた。

 でも、それは違った。少なくともボクにはそう思えた。

彼女を見つけたから。

彼女は漆黒の翼を広げて、漆黒の髪を舞わせながら、暗闇を優雅に飛び回っていた。

月明かりがそれを美しく照らし出して、まるで幻想の世界だった。

 何時間程見惚れていたんだろう。気が付くと彼女がボクの方へ飛んでこようとしていた。

まずい、見つかった!?

ボクは咄嗟にその場から逃げ出そうとした。


「待って、天使サン!」


 その姿に違わず美しい声で、彼女はボクを呼んだ。


「さっきから此処に居たでしょう?天使なんて初めて見たわ・・・凄い、綺麗な白い羽」


 そう言いながら、彼女はボクの羽に触れる。

ボクの羽なんかより彼女の羽の方がずっとずっと綺麗なのに、彼女はボクの羽をふわふわと触っていた。


「・・・君は誰?ボクを捕まえに来たの?」


「そんなこと、しないわ」 

 


その後、ボク達二人は、沢山のお話をして、沢山遊んだ。

 やっぱり彼女は酷い奴なんかじゃない。すごく優しいオンナノコなんだ。

神様だって知らない事くらいあるよね。優しい悪魔だって居るんだ。




「ふぅ、今日は楽しかったわ。また一緒に遊びたいな。明日も来れるかしら?」


「もちろん、来るよ」


 本当は二日連続で下に降りるなんて、神様は許しちゃくれないけど、ボクは明日も彼女に会いたかった。

別に、こっそり抜け出せばいいだけの話だしね。


「じゃあ、明日もこの場所で会いましょう。それじゃ、バイバイ」


「ちょっと待って!まだ君の名前聞いてないよ。ボクはエキハって言うんだ。君は?」


「・・・秘密。もっともっと仲良くなったら、その時はきっと教えてあげる」




それからボクは、毎日、毎日彼女のところに遊びに行った。

昼間は天界で皆と遊んで、夜になるとこっそりと下に降りる。そんな毎日の繰り返しだった。

皆から隠れるのも、寝る時間が少なくなるのも大変だったけど、彼女と話していると、そんなことはもうどうでもよくなった。

 彼女は色々と話してくれた。

下界の人達の事や、人間界の人達の事も。

彼女の話を聞いているのはすごく楽しくて、時が経つのがとても早くて、ボクはいつも帰る時間が来なかったらいいのにって思った。

 そんなある日、彼女はゆっくりと話してくれた。


「私達悪魔は元は貴方達天使の心の中に在った”負”の部分なの。

でも、神様が思い描く”完璧な生物”にはそれは在ってはならない物だった。だから私達は追い出され、そして蔑まれる存在になった。

貴方に判るかしら?

元は同じモノだったのに、勝手に分離させられて、何故だか判らないままに蔑視される私達の気持ちが。

辛かった、悲しかった。

でも、そんな時に貴方に逢えたの。私の事を軽蔑しない貴方に。

凄く嬉しかったわ。

だから私は貴方に感謝してるの。私と一緒に居てくれて、有難う」




ボクはショックだった。

あの優しい神様がそんなことをするなんて。神様がそんな方だったなんて。

ボクは感謝されるような奴じゃない。何も知らずに今までやってきた最低な奴だ。

 彼女に何かしてあげたい。

今までボク達の所為で苦しんできた彼女を、どうにかして救ってあげたい。

それが彼女への償いになるんだったら、ボクはなんだってする。

彼女にそう言うと、だけど彼女は笑って「そんなのはいいの。貴方の所為じゃないから」と言うだけだった。


「っでも・・・!何かしてあげたいんだ。君が苦しむのは嫌だから」


「・・・じゃあ、神様に伝えてくれないかな?『もう”悪魔”を生み出さないで』って」


 神様に言えば、ボクが黙って下に降りていたことがばれちゃう。

そしたらきっと、怒られるだけじゃ済まないだろう。

 でも、ボクは約束したんだ、彼女と。

『もう”悪魔”を造らせない』って。

だからボクは行くんだ。自分はどうなってもいいから、彼女の為に神様の許へ。






ボクは堕とされた。

 神様が言ったんだ。「均衡を守れない天使は天使ではない。お前は堕ちるべき存在となった」って。

彼女が『綺麗』と言ってくれた羽はすっかり灰色に染まってしまった。

今のボクは、天使から堕ちて、悪魔にもなれなかった”堕天使”だ。

ボクはもう、天界へは戻れない。 

 ボクの願いは、彼女の願いは、聞き入れてもらえたんだろうか。きっと駄目だったんだろう。

でもボクは満足だった。彼女との約束が果たせたから、神様にちゃんと伝えたから。

 ボクは彼女のところへと向かった。




「・・・堕と、されたの?」


「うん。でもボクはいいんだ。君のコト、ちゃんと神様に伝えられたから」


「そう・・ふふ、あはは!」


「・・・え?」


 急に笑い出した彼女を前にして、ボクはどうしたらいいか判らなかった。

なんで彼女は笑っているんだろう。なにがそんなに嬉しいんだろう。


「ふふ・・その顔、まだ気付いてないの?私達悪魔は貴方達を堕とす為に在るのよ。

貴方達天使が堕ちると、私達悪魔はその分上へ昇れる。つまり私達はなんとしても天使を堕とそうと躍起になっているの。

だから貴方に近付いた。私は自分の為に貴方を陥れた。

そう、始めから計算の内だったわ。貴方と話した事も、貴方と笑った事も、全てがね。

可哀想な天使・・・貴方は死ぬまで堕天使のレッテルを貼られるの・・・ふふっ」



      信じられない。

いや、始めから信じちゃ駄目だったんだ。神様が言っていたじゃないか、二度とこちらには帰ってこられなくなるって。

騙されたんだね、ボク。

そっか・・・


「うん、でもいいんだ」


「??」


「君と過ごした時が、すごく楽しかったから。ボクはそれで満足だよ。」


 そう。ボクはいいんだ。これで彼女が満足なんだったら。


「っ・・・!なんで貴方はそうなのよ!なんでそんなに優しくなれるの?なんで、なんで!?



・・・なんでそんなにも私と正反対なのよ・・・」



「そうかな?ボクは君もとても優しい人だと思うよ。ボクと一緒に居てくれたしね」


「・・・そんなこと言ってるとまた騙されるわよ」


「そうかもね・・・そういえば、ボクまだ君の名前聞いてないよ。最後に教えてくれないかな?」


「・・・エキハ。私の名前もエキハよ。そう、私は貴方から切り離された存在。だから此処まで正反対なのかな。

でも、私も貴方と一緒に居た時間は楽しかったわ。もう逢う事もないでしょうけど。

ありがとう、さようなら。あと・・・・・・ごめんなさい」


 そのときボクには彼女が泣いているように見えたんだけど、きっと気の所為だと思う。

そう、ボクと彼女は正反対。彼女はボクみたいに弱くないから。

 気付くと彼女はもう居なかった。

ボクも彼女に伝えたかったのにな。





 切り離しちゃって、ごめんなさい。今まで一緒に居てくれて、ありがとう。そして・・・さようなら。








コメント:初めてファンタジーちっくなモノを書かせていただきました。
     一部では『これがファンタジーなのか!?』という疑問の声も上がっておりますが;;聞かないフリです《痛
     かなり手間取りました;;普段の倍以上掛かったかと。でも何とか形になって良かったです。
     リクをくれたウタチャンに捧げてもいいですか?《疑問系

     因みに今回書くにあたって、あるオニーサンに多大なるご支援を賜りました。ということで、スペサンは”そのへんの兄ちゃん”で《笑

     2005,8,31追記。ビビットビタミンの実チャンがこの駄文に挿絵をつけて下さいました!
     その素敵絵へはこちらからどうぞ!!






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