1+屋上で始まる・・・





「……違う、んです、やっぱり」

「え……?」

「何も与えてくれないって、そうじゃないんです」

「何が、ですか?」

さっきは言わなかったこと。さっきは言えなかったこと。

「だって、貴女はいつも、頑張ってるじゃないですか」

「え……?」

「死ぬ気になる程じゃないかもしれませんけど、貴女はいつも、頑張ってる」



図書室はいつも、遅くまで電気がついていたから。

彼女はいつも、そこにいたから。



「少なくとも僕はあなたが頑張っていたのを知っているし、そのお蔭で図書室が快適な場であることに感謝しています。

 それが仮令本気の頑張りでなくても、僕にとってはとても大切なことなんです」



頑張ることと本気になることは、一体どう違うんだろう。

きっと、彼女にとっては全くの別物なんだろう。

でも、仮令本気じゃなくても、頑張ることだってそれなりにいいものだったりもするんじゃないだろうか。



「本気じゃない頑張りって、駄目ですか?」

だから、何も無かった、なんて言わないでほしい。

「貴女がそうやって生温くでもいいから生きていてくれることを必要としている少なくともこの世に、この場に一人は存在するんです」

あれが何でもなかっただなんて言わないでほしい。

「貴女が居なくなってしまったら、僕の大好きな空間は一体どうなってしまうんですか?」



僕は図書室が好きだ。

彼女が居てくれる図書室が好きだ。

彼女が頑張っている空間が好きだ。

だから。



「僕が放課後に本を返しに行ったときに、貴女にカウンターにいてほしいんです」

「……自己中の典型的な言い分ですね」

「自覚はあります」

「そもそも何ら解決になってないってことも、話の流れがおかしいってことも」

「薄々感付いてはいます」

「それでも、私に図書室にいろと?」

「ええ、まあ」


彼女がじぃっと僕を見つめた。

ぼくも負けじと見つめ返してみた。

でも、やっぱり気まずくなってそっと視線を逸らした。

と、彼女がふと口を開いた。


「……貴方は、今、本気ですか?」

「え……?」

「貴方は、今、私を止めるために本気になっていますか?」

少しばかり、残酷な問い。

それと真っ向から向き合う為に、僕はもう一度彼女と目を合わせた。

「本気かどうかは、分かりません。でも……」

「でも?」

彼女は相変わらずじぃっと僕を見つめている。

僕も、今度は目を逸らさなかった。

「今、確かに僕は、頑張ってます」


「……そう、ですか」

「……………………」

「うーん、じゃあ、そうですねぇ……分かりました。図書室へ行きましょう」

「……はぁ?」

「だって貴方、頑張ってるんでしょう?じゃあ、無下には出来ないじゃないですか」

「じゃあ……」

彼女は、また、あそこに居てくれるのだろうか。


「でも、責任とってくださいね」

「責任……?」

「私にも、頑張る意義を与えてください」

「……善処します」





そして、僕たちは扉へと向かった。


大切なところへと続く扉に。










++++++++++
(多分)ハッピーエンド。






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