3+スーパーヒーロー(?)誕生
「待たれよ!」
「……え?」
「は?」
「あ、あの……大神、くん?」
「いえ、僕じゃないです僕じゃないです!」
僕は突然『待たれよ!』なんて古風な話し方になるような癖は持ち合わせてない、残念ながら。いや、幸運ながら、か。
そもそも僕よりちょっと声高かったぞさっきの。
「……幻聴?」
「いえ、私も聞こえ……いや、そうですね、そうですよね。きっと幻聴です」
斎賀さんも何も無かったかのように片付けようとした。
「待たれよッ!」
「……………」
「……………」
「……あ、っと、その……」
「あ、じゃあそろそろ私行きますね!」
「いや、ちょっと……」
「気が向いたら先生呼んでおいてください!生徒さん方に見せるのも可哀想ですから!」
現実逃避しようとしているような人間が現実離れした事象から目を背けないでほしい。
っていうか、僕を一人にしないでほしい!
「だーかーらー、待てっていってるでしょうがぁぁぁっ!!」
遂に声の主がキレた。
「さっきから雰囲気出そうと口調も変えて頑張って呼んでるのに!」
いや、どう考えても逆効果だったって。
「っと待てそこぉ!すかさず飛び降りようとしなーい!」
今だけ心底斎賀さんが羨ましかった。僕だって逃避したい。
彼女が今にも一歩を踏み出そうとしているのを見て慌てたのか、声の主が空から降ってきた。
そう、降ってきた。
「斎賀ァァァ!!あんた何断りもナシに死のうとしてんの!!」
「いえ、どうやって今会ったばっかりの相手にそれまでに断りを入れろって言うんですか」
どうやら彼女の知り合いでもないらしい。いや、あんな知り合いがいたら引く。
っていうかお願いだからその前に人間が空から降ってきたというところにツッコミ入れてくれ。
空から降ってきたのはなんか色々と間違ったおねーさんだった。
長身で目鼻立ちもはっきりしていて、首から上だけ見たらかなり美人さんなのに、その格好と変な言動で台無しになっている。
この人、何で白衣にジャージなんて着てるんだろう。
「さーいーがー。あんたねぇ、自分が何しようとしてるか分かってんの?」
「分かってますちゃんと分かってますから離してくださいお願いです」
おねーさんに抱きこまれた斎賀さんがじたばたともがく、けど、奈何せん身長の差。その抵抗は虚しいだけだった。
美人さんの腕の中の美少女。傍から見るとなかなかオツな光景だ。こんな状況じゃなければ。
「大体ねぇ、あんたがそんなところから落ちたくらいで死ねる訳ないでしょーが!少しは落ち着きなさいって!」
「大丈夫です人間上手いこと叩きつければ2階から落ちても死ねますから」
「誰が人類全てが死ねないって言ったよ!あんただから死ねないの!」
「私は人類の一員です!そもそも貴女みたいな変な方に言われたくありません!」
いつも落ち着いている斎賀さんがヒートアップしてきた。
「あんた、まだ自分が普通の人間だと思ってたの!?」
その声に斎賀さんの動きがピタリと止む。
「いい加減現実に目を向けなさいよー。なんでもないような人間がそこまで頭良かったり運動神経抜きん出てたりする訳ないでしょ。学校では抑えてるみたいだけど」
「な、どうして……」
「本気になれないって?当たり前でしょ。あんたが本気になったら下手すりゃ町一個吹っ飛ぶわよ」
「え……?」
「まあまあ。積もる話は後でねー。大丈夫、私についてくれば退屈なんて言ってられなくなるわ。なんてったってあんた、人類を守るんだから」
「え、あの……」
「んじゃ、そこのおにーさん、このおじょーさん貰っていくから!」
「はぁ?」
「え?」
「あんたはこっちー。しっかり捕まってなさいよ!じゃ、ばいばいおにーさん」
「ちょ、ま……」
「や、離しっ……」
と、斎賀さんを抱えたおねーさんが急に跳んだ。
そんでもって、そのまま飛んでった。
「……はぁ?」
僕は一人、その場に残された。
夢、なのだろうか。
+++
夢だったらどんなに幸せだっただろう。
数日後、僕はテレビの画面に釘付けになっていた。
『車輪が出ずに着陸し損ねた飛行機を一人の少女が支えています!これは現実なのでしょうか!?』
「……斎賀、さん?」
見つかったらしい。彼女が本気になれるモノ。
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ギャグオチ?
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